キア・スターマー
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サー・キア・スターマー Sir Keir Starmer | |
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公式肖像(2024年撮影) | |
生年月日 | 1962年9月2日(61歳) |
出生地 | イングランド ロンドンサザーク区 |
出身校 |
リーズ大学 オックスフォード大学セント・エドモンド・ホール |
前職 |
弁護士 検察局長官 |
所属政党 | 労働党 |
配偶者 | ヴィクトリア・アレクサンダー |
子女 | 息子1人、娘1人 |
公式サイト | keirstarmer.com |
第80代 首相 | |
内閣 | スターマー内閣 |
在任期間 | 2024年7月5日 - 現職 |
国王 | チャールズ3世 |
内閣 | 影のスターマー内閣 |
在任期間 | 2020年4月4日 - 2024年7月5日 |
女王 国王 |
エリザベス2世 チャールズ3世 |
在任期間 | 2016年10月6日 - 2020年4月4日 |
在任期間 | 2015年9月14日 - 2016年6月27日 |
選挙区 | ホルボーン・アンド・セント・パンクラス選挙区 |
当選回数 | 4回 |
在任期間 | 2015年5月7日 - |
その他の職歴 | |
第22代 労働党党首 (2020年4月4日 - 現職) |
サー・キア・ロドニー・スターマー(英: Sir Keir Rodney Starmer、KCB、1962年9月2日 - )は、イギリスの政治家、弁護士。同国第80代首相(在任: 2024年7月5日 - )、第22代労働党党首。
来歴
生まれと学生時代
ロンドン中心部のサザーク出身。庶民の家庭に生まれ[1]、看護師の母ジョゼフィン(旧姓:ベイカー)と工具製作者の父ロドニー・スターマーの間に誕生した4人の子供の二男で、サリー州のオクステッドにて育つ。
両親ともに労働党の支持者で、名前のキアは労働党創設者の一人のケア・ハーディから取られた。
幼少期には、当初公立校であったライゲート・グラマー・スクールに通った。しかし、2年後に同校は私立校となったため、地元の行政機関が16歳になるまでの学費を負担した。10代の頃から労働党員として活発に活動。
1986年、オックスフォード大学にて民法学士(修士課程)を修了。
弁護士として
1987年に人権法を専門とする法廷弁護士となり、カリブ海諸国やアフリカにおいて、死刑囚の弁護を担当した。
1990年代後半には、マクドナルドの環境保護対策を批判したことで、同社から訴えられた活動家たちの弁護を無償で請け負うこともあった。
2008年に、検察官としてはナンバー3の役職であるイングランド及びウェールズ公訴局長(日本における検事総長に相当)に上り詰めた後、政治家へ転身[2]。
2015年にロンドンのホルボーン・アンド・セント・パンクラス選挙区に出馬し下院議員となった。ジェレミー・コービンが組織した影の内閣に3年以上在籍したが、自身は社会主義者ではあるもののコービンの支持者ではないとしている。影の内閣ではイギリスの欧州連合離脱に関連した政策などを担当。親EUの姿勢を示した[3][4]。
議会の不正経理問題で与野党の議員を起訴
政治への信頼を揺るがした議会の不正経理問題で与野党の議員を起訴するなど、刑事司法への貢献が評価され、当時のチャールズ皇太子から爵位を授けられた[1]。
2019年イギリス総選挙で労働党が大敗すると、コービンが労働党党首を辞任。スターマーは後任を決める党首選挙に立候補し1990年代以降民営化されていたイギリスの鉄道やロイヤルメール、水道の再国有化や反労働組合法の撤回など、コービン党首時代の主要政策を踏襲する10の公約を掲げた。党首選挙ではコービンの後任と目されていたレベッカ・ロング=ベイリー下院議員らを大差で破り、党首に就任した。
党首就任後
党首就任後に行った影の内閣の人事では、元労働党党首であるエド・ミリバンドを影のエネルギー・気候大臣に、レイチェル・リーヴスを影の財務大臣に任命した。
同国内で新型コロナウイルスの感染が拡大する中、保守党政権とも建設的に協力すると表明し、ユダヤ人社会に対しては労働党内に広がっていた反ユダヤ主義を謝罪した[5]。
党首就任間もない頃は、労働党の支持率低迷に苦しみ、2021年5月には長年労働党の牙城だったイングランド北部ハートリプールの下院補選で、保守党に敗北した。この結果を受けてスターマーは方針を転換し、大学無償化やエネルギー・水道の国有化といった従来の公約を破棄した。この動きは党内左派から「裏切り」と批判されたが、トニー・ブレア元首相は「労働党を大幅にセンターの位置に戻した。その結果、彼とそのチームへの人々の安心感が増した」と評価した[6]。
2023年10月10日、労働党の党大会がリヴァプールで開かれるも、スターマーが演説を始めようとした際抗議者が壇上に乱入し、グリッター(きらきら光る細かい粒)を振りかけ「真の民主主義」と「危機」について叫んだ。抗議者はその後、ステージから引きずり降ろされた。スターマーは、「これで私が困ると思うなら、彼は私を知らない」と述べ、上着を脱いでスピーチを続行した[7]。
2021年以降、ジョンソン・トラス・スナクの3代に渡って続いた保守党政権の混乱などによって、労働党は各種世論調査で保守党に大差を付けてリードしている[8]。
2024年の総選挙でスターマーは、同選挙は「変化の機会」だと述べ、有権者が労働党に投票すべき3つの理由を挙げた。第一に「混乱を止めるため」、第二に「変化の時だから」、そして第三に労働党には「準備が整っており、費用も資金も十分に用意された、英国再建の長期計画」があるからだとした。6月13日、労働党はマニフェストを発表し、経済成長、計画システム改革、インフラ、いわゆる「クリーンエネルギー」、医療、教育、育児、労働者の権利強化に焦点を当てた。
前回総選挙で大敗を喫した労働党は、2024年7月4日の総選挙では一転して1997年の総選挙以来となる地滑り的勝利を収め、スターマーが勝利宣言を行った[9]。自身も大差で再選したが、得票は前回の36,641票から18,884票へと大きく減らした。「親ガザ」を公約した無所属のアンドリュー・ファインスタインが7,312票で次点となり、2023年パレスチナ・イスラエル戦争に対する(イスラエル寄りとされた)スターマーへの批判票と報じられた[10]。労働党党首である、キア・スターマーはこの選挙結果を受け、5日午後、バッキンガム宮殿に於いてチャールズ国王に拝謁し[11]、国王より組閣を要請され、労働党党首としては2010年にゴードン・ブラウンが退陣して以来、14年ぶりとなる新首相に任命され、正式に首相に就任した[12][13]。
政策
当初、自ら「社会主義者」と称し、コービン党首時代の政策の踏襲を掲げたことから、「穏健左派」(Soft Left)と見られていた[14]。しかし、その後は産業政策を軟化、金融業界を取り込む姿勢に転換し、「中道路線で労働党を3回の選挙勝利に導いたトニー・ブレア元首相の親ビジネス政策に回帰しようとしている」とも評される[15]。2023年の影の内閣改造で、ほとんどのアナリストは、スターマーが党内で右派に移行し、穏健左派の人々を降格し、ブレア派に置き換えたと結論付けた。
内政
スターマーは、公共機関の改革、地方主義、権限委譲を繰り返し強調してきた。またスターマーは、保守党の指導者らが貴族の称号を「従僕や寄付者」に与えてきたと述べた上で、貴族院を廃止し直接選挙で選出される上院に置き換えることを公約している[16]。
スターマーは、国民保健サービス(NHS)を含む英国の公共サービスへの社会的所有と投資を支持している。2020年の労働党党首選挙では、所得上位5%の所得者への所得税増税と法人税回避の廃止を約束したが、2023年には所得税の公約を撤回した。社会的不平等については、スターマーは健康、不平等、ホームレス、環境に関する国のパフォーマンスを測定する「国家幸福指標」を提案している。また、英国のユニバーサル・クレジット制度(イギリスの社会保障の一種)の「見直し」を求めている。
外交
「違法な戦争」の終結と英国の武器輸出の見直しを主張している。党首選の中で彼は、下院の支持を得た場合にのみ合法的な軍事行動を認める軍事介入防止法を制定すると公約した。 スターマーは人権侵害に関与した中国当局者に対する制裁を求めた。また、イエメンでのサウジ軍事作戦に使用されたサウジアラビアへの英国の大規模な武器販売を承認し、同国の人道危機を深刻化させたとしてジョンソン政権を批判した[17]。
スターマーは、核抑止力としてイギリスの核兵器を維持することを支持し、トライデント計画の更新に賛成票を投じた[18]。また、冷戦後のイギリスの核兵器備蓄の段階的な削減政策全般を支持している。
2021年、スターマーはイスラエルは「国際法を尊重しなければならない」と述べ、イスラエル政府に対し、パレスチナ指導者と協力してイスラエル・パレスチナ紛争の緩和に努めるよう求めた。スターマー氏はイスラエルの入植地、ヨルダン川西岸地区の併合案、イスラエル占領地における「パレスチナ人の立ち退き」に反対している。スターマーはまた、再生可能エネルギーを推進するための「逆OPEC」の創設への支持を表明している。2023年6月にパレスチナ駐英代表団長フサム・ゾムロット氏と会談した際、スターマーは2024年の総選挙で労働党が勝利した場合、パレスチナ国家を承認すると改めて約束した。 2024年1月、スターマー氏は将来の労働党政権はパレスチナを多国間の和平プロセスの一環として承認するだろうと述べた。
ロシアのウクライナ侵攻前、スターマーはNATO事務総長イェンス・ストルテンベルグと会談し、労働党前党首のジェレミー・コービンがNATOを批判するのは「間違い」であり、労働党のNATOへの関与は「揺るぎない」ものだと述べた。さらに、「イギリスは団結しよう...ボリス・ジョンソン政権とどんな困難に直面しても、ロシアの侵略に関しては我々は団結する」と付け加えた。スターマーはロシアに対する「広範かつ強力な」経済制裁を求めた[19]。また、ガーディアン紙の論説で戦争反対連合を批判し、同連合のメンバーは「平和を訴える善意の声ではなく」むしろ「良く言っても世間知らず、最悪の場合、民主主義を直接脅かすロシアのプーチン大統領のような権威主義的指導者を積極的に支援している」と書いた。 2023年2月、スターマーはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談し、ロシアのウクライナ侵攻中に同国を支援することを約束し、首相に就任してもウクライナ戦争に関するイギリスの立場は変わらないと述べた[20]。また、プーチンを含むロシアの指導者らが人道に対する罪でハーグで裁かれるよう求めた。スターマーは、プーチンが国際刑事裁判所で起訴された後、プーチンに対する逮捕状が発行されたことを支持した。
人物・家族
過激な言動をしないことから、「退屈」「政治家として面白味やカリスマ性がない」と英国民やメディアから揶揄されることがある[1][21]。しかし、スターマーの堅実な姿勢は、派手な演出や空約束ばかりの政治に裏切られてきた国民から次第に支持を得るようになり、自身が率いる労働党への追い風となり、2024年7月、14年ぶりの政権交代と首相就任に繋がったという分析、評価がある[1]。
妻は、国民保健サービス(NHS)に勤務する作業療法士のヴィクトリア・アレクサンダー(Victoria Alexander)。2007年に結婚した夫婦の間には、息子1人、娘1人がいる[22]。
スターマーは、魚菜食主義者(ペスクタリアン)であり、妻ヴィクトリアは、菜食主義者(ベジタリアン)である。子供たちには、10歳から、肉を食べる権利を与えたという[23]。
スターマーは、無神論者である。神を信じていないが、人々を結びつける「信仰の力」は信じていると述べた[24]。彼と家族は、時々、リベラルなシナゴーグに通い[25]、子供たちは、母方の祖父母のユダヤ教の信仰と背景を知るように育てられているという[26]。
スターマーは、熱心なサッカー選手で、北ロンドンのアマチュアチーム、ホーマートン・アカデミカルズ(Homerton Academicals)でプレーしている[27]。イングランド・プレミアリーグのアーセナルFCの熱烈なサポーターでもある[1]。
大学時代に、警察沙汰になったことがある。英紙ガーディアンによると、スターマーは大学時代に友人と一緒に南フランスの海岸に行き、アイスクリームを売って一儲けしようとした。だが無許可販売だったため友人は警察に逮捕され、スターマーも事情聴取を受けた苦い思い出があるという[28]。
脚注
- ^ a b c d e "「退屈」と言われるけれど 英労働党スターマー党首どんな人?". NHK NEWS WEB. 日本放送協会(NHK ONLINE). 2024年7月4日. 2024年7月5日閲覧。
- ^ “【イギリス総選挙2024】 キア・スターマー氏とは 最大野党・労働党党首”. BBC (2024年6月21日). 2024年6月21日閲覧。
- ^ “英労働党、新党首にキア・スターマー氏を選出”. BBC (2020年4月5日). 2020年4月4日閲覧。
- ^ “英労働党、新党首にスターマー氏…「党の信頼取り戻す」”. 読売新聞 (2020年4月4日). 2020年4月4日閲覧。
- ^ “英労働党、新党首にキア・スターマー氏選出”. AFP (2020年4月4日). 2020年4月4日閲覧。
- ^ “ブレア政権に倣え、次の英首相はスターマー氏か-最大野党に再び勝機”. ロイター (2023年9月28日). 2023年9月28日閲覧。
- ^ “英労働党党首にきらきらグリッター振りかけ……党大会に抗議者乱入”. BBC NEWS JAPAN (2023年10月11日). 2023年10月12日閲覧。
- ^ “Britons now think that Labour will win a majority at the next election | YouGov” (英語). yougov.co.uk. 2024年6月17日閲覧。
- ^ “'We did it! Change begins now' - Starmer's victory speech” (英語). www.bbc.com. 2024年7月5日閲覧。
- ^ Tim Stickings (2024年7月5日). “Pro-Gaza candidates capture seats from Labour as Muslim heartlands revolt” (英語). The National. 2024年7月5日閲覧。
- ^ Belam, Martin (2024年7月5日). “Keir Starmer formally appointed UK prime minister in meetng with King Charles – live” (英語). the Guardian. 2024年7月5日閲覧。
- ^ “【イギリス総選挙2024】 労働党が単独過半数、14年ぶり政権交代 保守党は現職閣僚や元首相ら落選”. BBCニュース (2024年7月5日). 2024年7月6日閲覧。
- ^ Belam, Martin (2024年7月5日). “Keir Starmer formally appointed UK prime minister in meeting with King Charles – live” (英語). the Guardian. 2024年7月5日閲覧。
- ^ Bienkov, Adam Payne, Adam. “Keir Starmer wins the Labour leadership contest and vows to unite the party”. Business Insider. 2023年5月19日閲覧。
- ^ “労働党への政権交代が英市場に最善、現政権に厳しい評価-MLIV調査”. ブルームバーグ. 2023年9月19日閲覧。
- ^ “Labour would abolish the House of Lords” (英語). (2022年11月20日) 2024年6月17日閲覧。
- ^ “Boris Johnson attacks Keir Starmer for asking about Yemen aid cut” (英語). The Independent (2021年3月3日). 2024年6月17日閲覧。
- ^ “Jeremy Corbyn was wrong on Nato, says Sir Keir Starmer” (英語). (2022年2月10日) 2024年6月17日閲覧。
- ^ Sabbagh, Dan; Defence, Dan Sabbagh; editor, security (2022年1月25日). “Johnson hints German reliance on Russian gas could affect Ukraine response” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077 2024年6月17日閲覧。
- ^ “Keir Starmer meets Ukraine's President Zelensky in Kyiv” (英語). (2023年2月16日) 2024年6月17日閲覧。
- ^ “次のイギリス首相に“最も近い男”スターマー氏は退屈な男なのか?総選挙は「2024年秋」と専門家予想”. FNN. 2024年1月1日閲覧。
- ^ “【イギリス総選挙2024】 キア・スターマー氏とは 最大野党・労働党党首”. BBC (2024年6月21日). 2024年6月21日閲覧。
- ^ Genevieve Holl-Allen (8 October 2023). “Sir Keir Starmer: I didn’t let my children eat meat until they were 10” (英語). The Telegraph. 2024年7月9日閲覧。
- ^ Rhiannon Williams (11 April 2021). “Keir Starmer: I may not believe in God, but I do believe in faith” (英語). iNews.co.uk. 2024年7月9日閲覧。
- ^ Charlotte Edwardes (22 June 2024). “'You asked me questions I've never asked myself': Keir Starmer's most personal interview yet” (英語). The Guardian. 2024年7月9日閲覧。
- ^ Lee Harpin (16 November 2020). “Starmer:Our kids are being brought up to know their Jewish backgrounds” (英語). The Jewish Chronicle. 2024年7月9日閲覧。
- ^ Stephen Moss, (21 September 2009). “Keir Starmer: 'I wouldn't characterise myself as a bleeding heart liberal” (英語). The Guardian.. 2024年7月9日閲覧。
- ^ “英国の新首相・スターマー氏、どんな人? 「規律の鬼」、不安は外交”. 2024年7月6日閲覧。
外部リンク
- 公式ウェブサイト
- Keir_Starmer (@Keir_Starmer) - X(旧Twitter)
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