本項、部分リーマン多様体の接続と曲率 では、ガウスの曲面論 (英語版 ) を高次元化した場合の成果を述べる。具体的にはリーマン多様体
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
の部分多様体M に対し、
といったものを高次元化した成果を述べる。
以下、本節ではリーマン多様体
(
M
¯
,
g
)
{\displaystyle ({\bar {M}},g)}
の部分多様体[注 1]
M
⊂
M
¯
{\displaystyle M\subset {\bar {M}}}
における接続とその曲率について議論する。本節の内容は古典的なの成果を一般のリーマン多様体に拡張したものである。
∇
¯
{\displaystyle {\bar {\nabla }}}
をg が定める
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
上のレヴィ-チヴィタ接続とする。またリーマン計量g をM に制限することで、
(
M
,
g
)
{\displaystyle (M,g)}
がリーマン多様体になるので、g が定めるM 上のレヴィ-チヴィタ接続
∇
{\displaystyle \nabla }
を考える事ができる。
一方、M は
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
の部分多様体なので、
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
のレヴィ-チヴィタ接続
∇
¯
{\displaystyle {\bar {\nabla }}}
のM への制限
∇
¯
M
{\displaystyle {\bar {\nabla }}^{M}}
も考える事ができる。
実はこの2つは以下の関係を満たす:
定理 ―
X 、Y をM 上のベクトル場とするとき、M の任意の点P に対し、以下が成立する[1] :
P
r
P
(
∇
¯
X
M
Y
|
P
)
=
∇
X
Y
|
P
{\displaystyle \mathrm {Pr} _{P}({\bar {\nabla }}_{X}^{M}Y|_{P})=\nabla _{X}Y|_{P}}
ここで
P
r
P
{\displaystyle \mathrm {Pr} _{P}}
は、
T
P
M
¯
{\displaystyle T_{P}{\bar {M}}}
の元の接ベクトル空間TP M への射影
P
r
P
:
T
P
M
¯
→
T
P
M
{\displaystyle \mathrm {Pr} _{P}~:~T_{P}{\bar {M}}\to T_{P}M}
である。
上では
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
の接続のM の接ベクトルバンドルTM への射影を考えたが、同様に
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
の接続のM の法ベクトルバンドルへの射影を考える事ができる。
M の点P に対し、
P
r
P
N
:
T
P
M
¯
→
N
P
M
{\displaystyle \mathrm {Pr} _{P}^{N}~:~T_{P}{\bar {M}}\to N_{P}M}
を
T
P
M
¯
{\displaystyle T_{P}{\bar {M}}}
の元の法ベクトルバンドル
N
P
M
{\displaystyle N_{P}M}
への射影とする。
定義 ―
X をM 上のベクトル場、η を法ベクトルバンドル
N
M
{\displaystyle NM}
の切断とするとき、M の法接続 (英 : normal connectionn )を以下のように定義する[2] :
∇
X
⊥
η
:=
P
r
N
∇
¯
X
M
η
{\displaystyle \nabla _{X}^{\bot }\eta :=\mathrm {Pr} ^{N}{\bar {\nabla }}_{X}^{M}\eta }
さらにY をM 上のベクトル場とするとき、
R
⊥
(
X
,
Y
)
η
:=
∇
X
⊥
∇
Y
⊥
η
−
∇
Y
⊥
∇
X
⊥
η
+
∇
[
X
,
Y
]
⊥
η
{\displaystyle R^{\bot }(X,Y)\eta :=\nabla _{X}^{\bot }\nabla _{Y}^{\bot }\eta -\nabla _{Y}^{\bot }\nabla _{X}^{\bot }\eta +\nabla _{[X,Y]}^{\bot }\eta }
をM の法曲率 (英 : normal curvature [2] )という。
上述したように、M 上のレヴィ-チヴィタ接続
∇
{\displaystyle \nabla }
は
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
のレヴィ-チヴィタ接続
∇
¯
M
{\displaystyle {\bar {\nabla }}^{M}}
のTM への射影であるので、両者の差
∇
¯
X
M
Y
−
∇
X
Y
{\displaystyle {\bar {\nabla }}_{X}^{M}Y-\nabla _{X}Y}
は
M
⊂
M
¯
{\displaystyle M\subset {\bar {M}}}
の法ベクトルバンドル
N
M
{\displaystyle NM}
への
∇
¯
X
M
Y
{\displaystyle {\bar {\nabla }}_{X}^{M}Y}
の射影となる。
M の点P に対し、
P
r
P
:
T
P
M
¯
→
T
P
M
{\displaystyle \mathrm {Pr} _{P}~:~T_{P}{\bar {M}}\to T_{P}M}
P
r
P
N
:
T
P
M
¯
→
N
P
M
{\displaystyle \mathrm {Pr} _{P}^{N}~:~T_{P}{\bar {M}}\to N_{P}M}
をそれぞれ
T
P
M
¯
{\displaystyle T_{P}{\bar {M}}}
の元の接ベクトル空間TP M への射影、
T
P
M
¯
{\displaystyle T_{P}{\bar {M}}}
の元の法ベクトルバンドル
N
P
M
{\displaystyle N_{P}M}
への射影とする。
定義 (第二基本形式 ) ―
I
I
(
X
,
Y
)
:=
∇
¯
X
M
Y
−
Pr
(
∇
¯
X
M
Y
)
{\displaystyle \mathrm {I\!I} (X,Y):={\bar {\nabla }}_{X}^{M}Y-\Pr({\bar {\nabla }}_{X}^{M}Y)}
をM の
(
M
¯
,
g
)
{\displaystyle ({\bar {M}},g)}
における第二基本形式 (英 : second fundamental form )[3] 、もしくは型テンソル [訳語疑問点 ] (英 : shape tensor [4] )という。
また
η
∈
N
P
{\displaystyle \eta \in NP}
に対し、
I
I
η
(
X
,
Y
)
:=
g
(
I
I
(
X
,
Y
)
,
η
)
{\displaystyle \mathrm {I\!I} _{\eta }(X,Y):=g(\mathrm {I\!I} (X,Y),\eta )}
と定義し、これも第二基本形式 という[5] 。
なお、「第二基本形式」という名称はガウスの曲面論から来ており、ガウスの曲面論ではリーマン計量
I
(
X
,
Y
)
:=
g
(
X
,
Y
)
{\displaystyle \mathrm {I} (X,Y):=g(X,Y)}
の事を第一基本形式 というのに対応した名称である[5] 。
Pr
(
∇
¯
X
M
Y
)
=
∇
X
Y
{\displaystyle \Pr({\bar {\nabla }}_{X}^{M}Y)=\nabla _{X}Y}
であったので、以下が成立する:
定理 ―
ガウスの公式 [6] (英 : Gauss formula [7] ):
∇
¯
X
M
Y
=
∇
X
Y
+
I
I
(
X
,
Y
)
{\displaystyle {\bar {\nabla }}_{X}^{M}Y=\nabla _{X}Y+\mathrm {I\!I} (X,Y)}
第二基本形式は以下を満たす[3] :
また、
P
(
t
)
{\displaystyle P(t)}
をM 上の曲線、
V
P
(
t
)
{\displaystyle V_{P(t)}}
を
P
(
t
)
{\displaystyle P(t)}
上のM に接するベクトル場とするとき、以下が成立する:
定理 ―
曲線に沿ったガウスの公式 (英 : Gauss formula along a curve )
∇
¯
d
t
V
P
(
t
)
=
∇
d
t
V
P
(
t
)
+
I
I
(
d
d
t
P
(
t
)
,
V
P
(
t
)
)
{\displaystyle {{\bar {\nabla }} \over dt}V_{P(t)}={\nabla \over dt}V_{P(t)}+\mathrm {I\!I} \left({d \over dt}P(t),V_{P(t)}\right)}
上では
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
の接続とM の接続の差を第二基本形式として定義したが、同様に
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
の接続とM の法接続の差を考える事ができる。
定義 ―
X をM 上のベクトル場、η を法ベクトルバンドル
N
M
{\displaystyle NM}
の切断とするとき、
S
η
(
X
)
:=
∇
X
⊥
η
−
∇
¯
X
M
η
=
−
Pr
∇
¯
X
M
η
{\displaystyle S_{\eta }(X):=\nabla _{X}^{\bot }\eta -{\bar {\nabla }}_{X}^{M}\eta =-\Pr {\bar {\nabla }}_{X}^{M}\eta }
を型写像 [8] (英 : shape operator [9] )もしくはワインガルテン写像 [8] (英 : Weingarten map [8] )という[10] 。
X 、Y をM 上のベクトル場、η を法ベクトルバンドル
N
M
{\displaystyle NM}
の切断とすると、Y とη は直交するので、
0
=
X
g
(
Y
,
η
)
=
g
(
∇
¯
X
M
Y
,
η
)
+
g
(
Y
,
∇
¯
X
M
η
)
=
g
(
I
I
(
X
,
Y
)
,
η
)
−
g
(
Y
,
S
η
(
X
)
)
{\displaystyle 0=Xg(Y,\eta )=g({\bar {\nabla }}_{X}^{M}Y,\eta )+g(Y,{\bar {\nabla }}_{X}^{M}\eta )=g(\mathrm {I\!I} (X,Y),\eta )-g(Y,S_{\eta }(X))}
である。よって次が成立する:
定理 ―
ワインガルテンの公式 [11] (英 : Weingarten Equation )[12]
g
(
I
I
(
X
,
Y
)
,
η
)
=
g
(
Y
,
S
η
(
X
)
)
{\displaystyle g(\mathrm {I\!I} (X,Y),\eta )=g(Y,S_{\eta }(X))}
よって特に
S
η
(
X
)
{\displaystyle S_{\eta }(X)}
はX 、η に関して
C
∞
(
M
)
{\displaystyle C^{\infty }(M)}
-線形である[13] 。
前節と同様に記号を定義し、
∇
{\displaystyle \nabla }
により定まるM の曲率を
R
{\displaystyle R}
、
∇
¯
{\displaystyle {\bar {\nabla }}}
により定まる
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
の曲率を
R
¯
{\displaystyle {\bar {R}}}
とする。
さらにX 、Y 、Z 、W をM 上のベクトル場とし、η 、ζ をM の法ベクトルバンドルの切断とする。このとき、次が成立する:
定理 ―
ガウスの方程式 [14] (英 : Gauss equation [15] )
g
(
R
(
X
,
Y
)
Z
,
W
)
=
g
(
R
¯
(
X
,
Y
)
Z
,
W
)
+
g
(
I
I
(
X
,
Z
)
,
I
I
(
Y
,
W
)
)
−
g
(
I
I
(
X
,
W
)
,
I
I
(
Y
,
Z
)
)
{\displaystyle g(R(X,Y)Z,W)=g({\bar {R}}(X,Y)Z,W)+g(\mathrm {I} \!\mathrm {I} (X,Z),\mathrm {I} \!\mathrm {I} (Y,W))-g(\mathrm {I} \!\mathrm {I} (X,W),\mathrm {I} \!\mathrm {I} (Y,Z))}
コダッチの方程式 (英 : Codazzi's equation [16] )
g
(
R
¯
(
X
,
Y
)
Z
,
η
)
=
(
∇
¯
Y
I
I
)
(
X
,
Z
,
η
)
−
(
∇
¯
X
I
I
)
(
Y
,
Z
,
η
)
{\displaystyle g({\bar {R}}(X,Y)Z,\eta )=({\bar {\nabla }}_{Y}I\!\!I)(X,Z,\eta )-({\bar {\nabla }}_{X}I\!\!I)(Y,Z,\eta )}
リッチの方程式 (英 : Ricci equation [2] )
g
(
R
⊥
(
X
,
Y
)
η
,
ζ
)
=
g
(
R
¯
(
X
,
Y
)
η
,
ζ
)
−
g
(
[
S
η
,
S
ζ
]
X
,
Y
)
{\displaystyle g(R^{\bot }(X,Y)\eta ,\zeta )=g({\bar {R}}(X,Y)\eta ,\zeta )-g([S_{\eta },S_{\zeta }]X,Y)}
ここで
∇
¯
X
I
I
{\displaystyle {\bar {\nabla }}_{X}I\!\!I}
は
I
I
(
X
,
Y
,
η
)
:=
g
(
I
I
(
X
,
Y
)
,
η
)
{\displaystyle I\!\!I(X,Y,\eta ):=g(\mathrm {I\!I} (X,Y),\eta )}
を
T
∗
M
⊗
T
∗
M
⊗
N
∗
M
{\displaystyle T^{*}M\otimes T^{*}M\otimes N^{*}M}
の切断とみたときの共変微分であり、
[
S
η
,
S
ζ
]
X
:=
S
η
(
S
ζ
(
X
)
)
−
S
ζ
(
S
η
(
X
)
)
{\displaystyle [S_{\eta },S_{\zeta }]X:=S_{\eta }(S_{\zeta }(X))-S_{\zeta }(S_{\eta }(X))}
である。
ガウスの方程式はM の曲率が全空間
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
の曲率と第二基本形式から決まる 事を意味している。同様にリッチの方程式はM の法曲率がワインガルテン写像から決まる事を意味している。
またガウスの方程式からM の断面曲率
S
e
c
P
(
v
,
w
)
:=
g
P
(
R
P
(
v
,
w
)
w
,
v
)
g
P
(
v
,
v
)
g
P
(
w
,
w
)
−
g
P
(
v
,
w
)
2
{\displaystyle \mathrm {Sec} _{P}(v,w):={g_{P}(R_{P}(v,w)w,v) \over g_{P}(v,v)g_{P}(w,w)-g_{P}(v,w)^{2}}}
と
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
の断面曲率
S
e
c
¯
P
(
v
,
w
)
{\displaystyle {\overline {\mathrm {Sec} }}_{P}(v,w)}
に関して以下の系が従う:
系 ― TP M の正規直交している2本のベクトルv 、w に関し、以下が成立する[17] :
S
e
c
P
(
v
,
w
)
=
S
e
c
¯
P
(
v
,
w
)
+
g
(
I
I
(
v
,
v
)
,
I
I
(
w
,
w
)
)
−
g
(
I
I
(
v
,
w
)
,
I
I
(
v
,
w
)
)
{\displaystyle \mathrm {Sec} _{P}(v,w)={\overline {\mathrm {Sec} }}_{P}(v,w)+g(\mathrm {I\!I} (v,v),\mathrm {I\!I} (w,w))-g(\mathrm {I\!I} (v,w),\mathrm {I\!I} (v,w))}
詳細は[18] を参照。
この節の
加筆 が望まれています。
(2023年10月 )
これまで同様
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
をリーマン多様体、
M
⊂
M
¯
{\displaystyle M\subset {\bar {M}}}
をその部分多様体とし、P をM の点とし、X 、Y をTP M の元とし、η を法ベクトル空間NP M の元とする。
定義 (第三基本形式) ―
I
I
I
(
X
,
Y
)
=
∑
i
=
1
m
g
(
I
I
(
X
,
e
i
)
,
I
I
(
Y
,
e
i
)
)
{\displaystyle \mathrm {I\!I\!I} (X,Y)=\sum _{i=1}^{m}g(\mathrm {I\!I} (X,e_{i}),\mathrm {I\!I} (Y,e_{i}))}
を第三基本形式 という[19] 。
ここでm はM の次元であり、
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
はTP M の正規直交基底である。
第三基本形式
I
I
I
(
X
,
Y
)
{\displaystyle \mathrm {I\!I\!I} (X,Y)}
は二次形式
φ
X
,
Y
(
Z
,
W
)
=
g
(
I
I
(
X
,
Z
)
,
I
I
(
Y
,
W
)
)
{\displaystyle \varphi _{X,Y}(Z,W)=g(\mathrm {I\!I} (X,Z),\mathrm {I\!I} (Y,W))}
のトレースであるので、
I
I
I
(
X
,
Y
)
{\displaystyle \mathrm {I\!I\!I} (X,Y)}
は基底の取り方に依存せずwell-definedである。
第三基本形式は以下のようにも表現可能である:
証明
I
I
I
(
X
,
Y
)
=
∑
i
=
1
m
g
(
I
I
(
X
,
e
i
)
,
I
I
(
Y
,
e
i
)
)
{\displaystyle \mathrm {I\!I\!I} (X,Y)=\sum _{i=1}^{m}g(\mathrm {I\!I} (X,e_{i}),\mathrm {I\!I} (Y,e_{i}))}
=
∑
i
=
1
m
∑
j
=
1
n
−
m
g
(
I
I
(
X
,
e
i
)
,
η
j
)
g
(
I
I
(
Y
,
e
i
)
,
η
j
)
{\displaystyle =\sum _{i=1}^{m}\sum _{j=1}^{n-m}g(\mathrm {I\!I} (X,e_{i}),\eta _{j})g(\mathrm {I\!I} (Y,e_{i}),\eta _{j})}
=
∑
i
=
1
m
∑
j
=
1
n
−
m
g
(
S
η
j
(
X
)
,
e
i
)
g
(
S
η
j
(
Y
)
,
e
i
)
{\displaystyle =\sum _{i=1}^{m}\sum _{j=1}^{n-m}g(S_{\eta _{j}}(X),e_{i})g(S_{\eta _{j}}(Y),e_{i})}
=
∑
j
=
1
n
−
m
g
(
S
η
j
(
X
)
,
S
η
j
(
Y
)
)
{\displaystyle =\sum _{j=1}^{n-m}g(S_{\eta _{j}}(X),S_{\eta _{j}}(Y))}
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
が定曲率空間の場合、第三基本形式は以下を満たす:
定理 ―
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
が曲率c の定曲率空間であれば、以下が成立する[19] :
R
i
c
(
X
,
Y
)
=
(
m
−
1
)
c
+
m
g
(
I
I
(
X
,
Y
)
,
H
)
−
I
I
I
(
X
,
Y
)
{\displaystyle \mathrm {Ric} (X,Y)=(m-1)c+mg\left(\mathrm {I\!I} (X,Y),H\right)-\mathrm {I\!I\!I} (X,Y)}
ここで
R
i
c
(
X
,
Y
)
{\displaystyle \mathrm {Ric} (X,Y)}
はM のリッチテンソルであり、H はM の平均曲率ベクトルである。
特にM の余次元が1 であれば、前述したワインガルテン写像による第三基本形式の表記を適用することで、以下が成立する事がわかる:
本節では、埋め込み
M
⊂
M
¯
{\displaystyle M\subset {\bar {M}}}
が余次元1 の場合 、すなわち
d
i
m
M
¯
−
d
i
m
M
=
1
{\displaystyle \mathrm {dim} {\bar {M}}-\mathrm {dim} M=1}
の場合、M に対し主曲率、ガウス曲率、平均曲率という3つの曲率概念を定義する。
これらの概念を定義するためにまずその動機を述べる。今
M
⊂
M
¯
{\displaystyle M\subset {\bar {M}}}
は余次元1 なので、長さ1 の法ベクトルη を(±1倍を除いて)一つだけ 選ぶ事ができる。
点P における接ベクトルv に関し、曲線
P
v
(
s
)
{\displaystyle P_{v}(s)}
をP を通りv に接する(弧長パラメータs でパラメトライズされた)M の測地線とすると、
P
v
(
s
)
{\displaystyle P_{v}(s)}
がM の測地線であった事から、
∇
¯
d
s
d
d
s
P
v
(
s
)
{\displaystyle {\tfrac {\bar {\nabla }}{ds}}{\tfrac {d}{ds}}P_{v}(s)}
は必ずM に直交するので、M の余次元が1 な事から、
∇
¯
d
s
d
d
s
P
v
(
s
)
{\displaystyle {\tfrac {\bar {\nabla }}{ds}}{\tfrac {d}{ds}}P_{v}(s)}
はη と平行になる。
よって
g
(
∇
¯
d
s
d
P
v
(
t
)
d
s
,
η
)
{\displaystyle g({\tfrac {\bar {\nabla }}{ds}}{\tfrac {dP_{v}(t)}{ds}},\eta )}
は測地線の曲率の大きさに符号をつけたものである。
主曲率 とは(符号付きの)測地線の曲率の大きさ
g
(
∇
d
s
d
P
(
t
)
d
s
,
η
)
{\displaystyle g({\tfrac {\nabla }{ds}}{\tfrac {dP(t)}{ds}},\eta )}
の極値になっている値の事である。
主曲率は具体的には下記のように求める事ができる。
∇
d
s
d
d
s
P
v
(
s
)
=
0
{\displaystyle {\tfrac {\nabla }{ds}}{\tfrac {d}{ds}}P_{v}(s)=0}
なので、
曲線に沿ったガウスの公式 と第二基本形式の定義 より、
g
(
∇
¯
d
s
d
d
s
P
v
(
s
)
,
η
)
{\displaystyle g\left({\tfrac {\bar {\nabla }}{ds}}{\tfrac {d}{ds}}P_{v}(s),\eta \right)}
=
g
(
I
I
(
d
P
(
t
)
d
s
,
d
P
v
(
t
)
d
s
)
,
η
)
{\displaystyle =g(\mathrm {I\!I} \left({\tfrac {dP(t)}{ds}},{\tfrac {dP_{v}(t)}{ds}}\right),\eta )}
=
I
I
η
(
d
P
(
t
)
d
s
,
d
P
v
(
t
)
d
s
)
{\displaystyle =\mathrm {I\!I} _{\eta }\left({\tfrac {dP(t)}{ds}},{\tfrac {dP_{v}(t)}{ds}}\right)}
よって主曲率、すなわち
g
(
∇
d
s
d
P
(
t
)
d
s
,
η
)
{\displaystyle g({\tfrac {\nabla }{ds}}{\tfrac {dP(t)}{ds}},\eta )}
の極値は二次形式
I
I
η
{\displaystyle \mathrm {I\!I} _{\eta }}
を回転行列により対角化した際の対角成分
κ
1
,
…
,
κ
n
{\displaystyle \kappa _{1},\ldots ,\kappa _{n}}
の事である。
ガウス曲率 は主曲率
κ
1
,
…
,
κ
n
{\displaystyle \kappa _{1},\ldots ,\kappa _{n}}
の積、平均曲率 は主曲率
κ
1
,
…
,
κ
n
{\displaystyle \kappa _{1},\ldots ,\kappa _{n}}
の平均値である。
厳密な定義は以下の通りである:
定義 (主曲率) ―
M
⊂
M
¯
{\displaystyle M\subset {\bar {M}}}
が余次元1 で
η
∈
N
P
M
{\displaystyle \eta \in N_{P}M}
を点
P
∈
M
{\displaystyle P\in M}
における(±1倍を除いて)唯一の長さ1の法ベクトルとし、対称二次形式
I
I
η
(
X
,
Y
)
|
P
=
g
(
I
I
(
X
,
Y
)
,
η
)
|
P
{\displaystyle \mathrm {I\!I} _{\eta }(X,Y)|_{P}=g(\mathrm {I\!I} (X,Y),\eta )|_{P}}
を回転行列で対角化した際の固有値を
κ
1
,
…
,
κ
m
{\displaystyle \kappa _{1},\ldots ,\kappa _{m}}
とし、
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
を対応する長さ1 の固有ベクトルとする。このとき、
各ei の事を点P におけるM の主方向 (英 : principal direction )といい[20] 、
κ
i
{\displaystyle \kappa _{i}}
を主方向ei に関する主曲率 (英 : principal curvature )[20] という。
定義 (ガウス曲率 、平均曲率 (英語版 ) ) ―
記号を上の定義と同様に取る。このとき、主曲率の第i 基本対称式
σ
i
(
κ
1
,
…
,
κ
m
)
{\displaystyle \sigma _{i}(\kappa _{1},\ldots ,\kappa _{m})}
を二項係数
(
n
k
)
{\displaystyle \textstyle {\binom {n}{k}}}
で割った
H
i
:=
1
(
n
k
)
σ
i
(
κ
1
,
…
,
κ
m
)
{\displaystyle H_{i}:={1 \over \textstyle {\binom {n}{k}}}\sigma _{i}(\kappa _{1},\ldots ,\kappa _{m})}
を点P における第i 平均曲率 (英 : i -th mean curvature )という[21] 。特に、
K
:=
H
m
=
d
e
t
I
I
η
=
κ
1
⋯
κ
m
{\displaystyle K:=H_{m}=\mathrm {det} \mathrm {I\!I} _{\eta }=\kappa _{1}\cdots \kappa _{m}}
を点P におけるM のガウス曲率 (英 : Gausian curvature )[22] もしくはガウス・クロネッカー曲率 (英 : Gauss Kronecker curvature )[20] といい 、
H
:=
H
1
=
1
n
t
r
I
I
η
=
κ
1
+
⋯
+
κ
m
n
{\displaystyle H:=H_{1}={1 \over n}\mathrm {tr} \mathrm {I\!I} _{\eta }={\kappa _{1}+\cdots +\kappa _{m} \over n}}
を点P におけるM の平均曲率 (英 : mean curvature )という[20] 。
なお、ガウス曲率の事を全曲率 (英 : total curvature )という事もあるが[23] 、「全曲率」という言葉は測地線曲率の曲線全体に対する積分値を指す場合もあるので注意が必要である[23] 。
上記の定義についていくつか補足を述べる。第一に、単位法ベクトルη の向きを反転させると、主曲率の符号が反転してしまう 。このためM や
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
が向き付け可能なときは、TM×η の向きが
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
の向きと一致するという規約を授けてη の向きを固定する事が多い。
第二に、
I
I
η
(
X
,
Y
)
|
P
{\displaystyle \mathrm {I\!I} _{\eta }(X,Y)|_{P}}
は対称二次形式であるので、次が成立する:
定理 ―
(固有値
κ
1
,
…
,
κ
m
{\displaystyle \kappa _{1},\ldots ,\kappa _{m}}
が相異なれば)主方向
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
は互いに直交する。
第三にワインガルテンの公式から
g
(
S
η
(
X
)
,
Y
)
=
g
(
I
I
(
X
,
Y
)
,
η
)
{\displaystyle g(S_{\eta }(X),Y)=g(\mathrm {I\!I} (X,Y),\eta )}
であるので、明らかに次が成立する:
定理 ―
主曲率および主方向はそれぞれワインガルテン写像の固有値・固有ベクトルに一致する。
よって固有多項式の一般論から、特に次が成立する:
ここで
∧
i
S
η
{\displaystyle \wedge ^{i}S_{\eta }}
は
S
η
:
T
P
M
→
T
P
M
{\displaystyle S_{\eta }~:~T_{P}M\to T_{P}M}
が
∧
i
T
P
M
{\displaystyle \wedge ^{i}T_{P}M}
に誘導する写像を
∧
i
S
η
:
∧
i
T
P
M
→
∧
i
T
P
M
{\displaystyle \wedge ^{i}S_{\eta }~:~\wedge ^{i}T_{P}M\to \wedge ^{i}T_{P}M}
である。
第四に、平均曲率に関しては、
M
⊂
M
¯
{\displaystyle M\subset {\bar {M}}}
が余次元1 でなくとも、
I
I
(
X
,
Y
)
|
P
{\displaystyle \mathrm {I\!I} (X,Y)|_{P}}
を法ベクトル空間
N
P
M
{\displaystyle N_{P}M}
に値を取る二次形式とみなしたときのトレース(の1/n )として定義できる:
平均曲率ベクトル場は極小曲面 の特徴付けとして有用であり、閉多様体
M
⊂
M
¯
{\displaystyle M\subset {\bar {M}}}
が極小曲面になる必要十分条件はM 上の平均曲率ベクトル場が恒等的に0 である事である事が知られている[25] 。
本節では、向き付可能なリーマン多様体M をユークリッド空間に余次元1 で埋め込んでいる場合、すなわち
M
⊂
R
m
+
1
{\displaystyle M\subset \mathbb {R} ^{m+1}}
、dimM =m の場合に対し、「ガウス写像」を定義する事で、ワインガルテン写像やガウス曲率に幾何学的な意味付けを与える。
これまで同様η をM の単位法ベクトル場とすると、各点P ∈M に対し、ベクトルηP は長さ1 のベクトルなので、ηP を原点中心の単位球Sm の元とみなす事ができる。このようにみなす事で定義できる写像
G
:
P
∈
M
↦
η
P
∈
S
m
{\displaystyle G~:~P\in M\mapsto \eta _{P}\in S^{m}}
をガウス写像 (英 : Gauss map [26] 、英 : Gauss spherical mapping [20] )という。
M のP における接ベクトル空間の元TP M を
M
⊂
R
m
{\displaystyle M\subset \mathbb {R} ^{m}}
のP における接平面と自然に同一視すると、任意のv ∈TP M に対し、
⟨
η
,
v
⟩
=
0
{\displaystyle \langle \eta ,v\rangle =0}
である事から、
R
m
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m}}
においてTP M はTG(P) Sm と平行な超平面であるので、自然にTP M とTG(P) Sm を同一視する。このとき次が成立する:
定理 ―
M
⊂
R
m
+
1
{\displaystyle M\subset \mathbb {R} ^{m+1}}
を向き付け可能かつ余次元1 のリーマン多様体とし、G をM が定めるガウス写像とする。
このとき、ガウス写像が接ベクトル空間に誘導する写像
G
∗
:
T
P
M
→
T
G
(
P
)
S
m
≈
T
P
M
{\displaystyle G_{*}~:~T_{P}M\to T_{G(P)}S^{m}\approx T_{P}M}
は、
G
∗
(
v
)
=
−
S
η
(
v
)
{\displaystyle G_{*}(v)=-S_{\eta }(v)}
を満たす[20] 。ここで
S
η
(
v
)
{\displaystyle S_{\eta }(v)}
はワインガルテン写像である。
さらにガウス写像はガウス曲率と以下の関係を満たす:
定理 (ガウス写像によるガウス曲率の意味付け ) ―
記号を上述の定理 と同様に取る。
さらにM 、Sm の体積要素をそれぞれ
d
V
{\displaystyle dV}
、
d
V
′
{\displaystyle dV'}
とするとき、ガウス写像が誘導する写像
G
∗
:
⋀
m
T
G
(
P
)
∗
S
m
→
⋀
m
T
P
∗
M
{\displaystyle G^{*}~:~\bigwedge ^{m}T_{G(P)}^{*}S^{m}\to \bigwedge ^{m}T_{P}^{*}M}
は、
G
∗
(
d
V
G
(
P
)
′
)
=
K
P
d
V
P
{\displaystyle G^{*}(dV'_{G(P)})=K_{P}dV_{P}}
を満たす。ここでKP は点P におけるM のガウス曲率である[26] 。
断面曲率と第二基本形式の関係 と主曲率の定義 から、特に以下の系が成立する:
系 (断面曲率と主曲率の関係 ) ― 埋め込み
M
⊂
M
¯
{\displaystyle M\subset {\bar {M}}}
が余次元1 の埋め込みで、
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
が点
P
∈
M
{\displaystyle P\in M}
における主方向で
κ
1
,
…
,
κ
m
{\displaystyle \kappa _{1},\ldots ,\kappa _{m}}
を対応する主曲率とする。このときi ≠j を満たす任意のi , j ∈{1 ,...,m }に対し、以下が成立する[27] :
S
e
c
(
e
i
,
e
j
)
=
S
e
c
¯
(
e
i
,
e
j
)
+
κ
i
κ
j
{\displaystyle \mathrm {Sec} (e_{i},e_{j})={\overline {\mathrm {Sec} }}(e_{i},e_{j})+\kappa _{i}\kappa _{j}}
よってとくに
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
が曲率c の定曲率空間 (英語版 ) 、すなわち
M
¯
c
{\displaystyle {\bar {M}}_{c}}
上の任意の点P における任意の方向の断面曲率がc である空間の場合には、
S
e
c
(
e
i
,
e
j
)
=
c
+
κ
i
κ
j
{\displaystyle \mathrm {Sec} (e_{i},e_{j})=c+\kappa _{i}\kappa _{j}}
が成立する。
実は上式の右辺はM に内在的な量である:
定理 (Theorema Egregiumの一般化 ) ―
M
¯
c
{\displaystyle {\bar {M}}_{c}}
を曲率c の定曲率空間とし、
M
⊂
M
¯
c
{\displaystyle M\subset {\bar {M}}_{c}}
をその余次元1 の部分多様体とし、さらにP をM の点とする。さらに線形写像
ρ
:
∧
2
T
M
P
→
∧
2
T
M
P
{\displaystyle \rho ~:~\wedge ^{2}TM_{P}\to \wedge ^{2}TM_{P}}
を
g
(
ρ
(
X
∧
Y
)
,
Z
∧
W
)
=
g
(
R
(
X
,
Y
)
W
,
Z
)
{\displaystyle g(\rho (X\wedge Y),Z\wedge W)=g(R(X,Y)W,Z)}
により定義する。
このとき、ρ の固有値の集合は
{
κ
i
κ
j
+
c
∣
i
,
j
∈
1
,
…
,
m
,
s.t.
i
≠
j
}
{\displaystyle \{\kappa _{i}\kappa _{j}+c\mid i,j\in 1,\ldots ,m,{\text{ s.t. }}i\neq j\}}
に一致する[28] 。ここでm はM の次元であり、
κ
1
,
…
,
κ
m
{\displaystyle \kappa _{1},\ldots ,\kappa _{m}}
は点P における主曲率である。
また
κ
1
,
…
,
κ
m
{\displaystyle \kappa _{1},\ldots ,\kappa _{m}}
に対応する主方向を
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
とすると、
κ
i
κ
j
+
c
{\displaystyle \kappa _{i}\kappa _{j}+c}
に対応する固有ベクトルは
e
i
∧
e
j
{\displaystyle e_{i}\wedge e_{j}}
である。
証明
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
をそれぞれ
κ
1
,
…
,
κ
m
{\displaystyle \kappa _{1},\ldots ,\kappa _{m}}
に対応する主方向とすると、
(
e
i
∧
e
j
)
i
,
j
=
1
,
…
,
m
s.t.
i
<
j
{\displaystyle (e_{i}\wedge e_{j})_{i,j=1,\ldots ,m{\text{ s.t. }}i<j}}
は
∧
2
T
P
M
{\displaystyle \wedge ^{2}T_{P}M}
の基底である。
i >j を満たす任意のi ,j =1,...,m およびk >ℓ を満たす任意のk ,ℓ =1,...,m に対し、ガウスの方程式 から、
g
(
ρ
(
e
i
∧
e
j
)
,
e
ℓ
∧
e
k
)
{\displaystyle g(\rho (e_{i}\wedge e_{j}),e_{\ell }\wedge e_{k})}
=
g
(
R
(
e
i
,
e
j
)
e
ℓ
,
e
k
)
{\displaystyle =g(R(e_{i},e_{j})e_{\ell },e_{k})}
=
g
(
R
¯
(
e
i
,
e
j
)
e
ℓ
,
e
k
)
+
g
(
I
I
(
e
i
,
e
ℓ
)
,
I
I
(
e
j
,
e
k
)
)
−
g
(
I
I
(
e
i
,
e
k
)
,
I
I
(
e
j
,
e
ℓ
)
)
{\displaystyle =g({\bar {R}}(e_{i},e_{j})e_{\ell },e_{k})+g(\mathrm {I} \!\mathrm {I} (e_{i},e_{\ell }),\mathrm {I} \!\mathrm {I} (e_{j},e_{k}))-g(\mathrm {I} \!\mathrm {I} (e_{i},e_{k}),\mathrm {I} \!\mathrm {I} (e_{j},e_{\ell }))}
...(1)
η をM の単位法線とすると、主方向の定義から、
I
I
η
(
e
i
,
e
j
)
=
{
κ
i
if
i
=
j
0
otherwise
{\displaystyle \mathrm {I\!I} _{\eta }(e_{i},e_{j})={\begin{cases}\kappa _{i}&{\text{if }}i=j\\0&{\text{otherwise}}\end{cases}}}
であるので、M の余次元が1 な事から、
g
(
I
I
(
e
i
,
e
ℓ
)
,
I
I
(
e
j
,
e
k
)
)
=
{
κ
i
κ
j
if
(
i
,
j
)
=
(
ℓ
,
k
)
0
otherwise
{\displaystyle g(\mathrm {I} \!\mathrm {I} (e_{i},e_{\ell }),\mathrm {I} \!\mathrm {I} (e_{j},e_{k}))={\begin{cases}\kappa _{i}\kappa _{j}&{\text{if }}(i,j)=(\ell ,k)\\0&{\text{otherwise}}\end{cases}}}
である。
また
M
¯
{\displaystyle {\bar {M}}}
が曲率c の定曲率空間である事からすでに述べたように 、
g
(
R
(
X
,
Y
)
W
,
Z
)
{\displaystyle g(R(X,Y)W,Z)}
=
c
g
(
X
,
W
)
g
(
Y
,
Z
)
−
c
g
(
Y
,
W
)
g
(
X
,
Z
)
{\displaystyle =cg(X,W)g(Y,Z)-cg(Y,W)g(X,Z)}
が任意の接ベクトルX 、Y 、Z 、W に対して言えるので、i >j 、k >ℓ を満たすi , j , k , ℓ に対し、
g
(
R
¯
(
e
i
,
e
j
)
e
ℓ
,
e
k
)
{\displaystyle g({\bar {R}}(e_{i},e_{j})e_{\ell },e_{k})}
=
c
g
(
e
i
,
e
ℓ
)
e
(
e
j
,
e
k
)
−
c
g
(
e
i
,
e
k
)
g
(
e
j
,
e
ℓ
)
{\displaystyle =cg(e_{i},e_{\ell })e(e_{j},e_{k})-cg(e_{i},e_{k})g(e_{j},e_{\ell })}
=
{
c
if
(
i
,
j
)
=
(
k
,
ℓ
)
0
otherwise
{\displaystyle ={\begin{cases}c&{\text{if }}(i,j)=(k,\ell )\\0&{\text{otherwise}}\end{cases}}}
が成立する。
以上から、i >j 、k >ℓ を満たすi , j , k , ℓ に対し、
(1)の右辺
=
{
c
+
κ
i
κ
j
if
(
k
,
ℓ
)
=
(
i
,
j
)
0
otherwise
{\displaystyle ={\begin{cases}c+\kappa _{i}\kappa _{j}&{\text{if }}(k,\ell )=(i,j)\\0&{\text{otherwise}}\\\end{cases}}}
が成立する。
(
e
i
∧
e
j
)
i
,
j
=
1
,
…
,
m
s.t.
i
<
j
{\displaystyle (e_{i}\wedge e_{j})_{i,j=1,\ldots ,m{\text{ s.t. }}i<j}}
が
∧
2
T
P
M
{\displaystyle \wedge ^{2}T_{P}M}
の基底であった事から、上記の事実は
e
i
∧
e
j
{\displaystyle e_{i}\wedge e_{j}}
は
c
+
κ
i
κ
j
{\displaystyle c+\kappa _{i}\kappa _{j}}
を固有値とするρ の固有ベクトルである事がわかる。
S
e
c
(
e
i
,
e
j
)
=
c
+
κ
i
κ
j
{\displaystyle \mathrm {Sec} (e_{i},e_{j})=c+\kappa _{i}\kappa _{j}}
であったので、上記の定理は、有名なTheorema Egregium の一般化 になっている:
定理 (Theorema Egregium ) ―
R
3
{\displaystyle \mathbb {R} ^{3}}
の二次元部分多様体
M
⊂
R
3
{\displaystyle M\subset \mathbb {R} ^{3}}
に対し、点P におけるガウス曲率は点P における断面曲率と一致する[27] 。
Theorema Egregiumの一般化 から以下の系が従う:
系 (偶数次平均曲率の内在性、偶数次元のガウス曲率の内在性 ) ― 記号を前述の定理 と同様に取るとき、
M
¯
c
{\displaystyle {\bar {M}}_{c}}
におけるM の第r 平均曲率はr が偶数ならM に内在的な量である[注 2] 。
よってとくに
M
¯
c
{\displaystyle {\bar {M}}_{c}}
におけるM のガウス曲率K はM の次元m が偶数ならM に内在的な量である[28] [注 2] 。
一方、奇数次元のガウス曲率はM に内在的な量ではない 。実際ガウス曲率の定義
K
=
d
e
t
I
I
η
=
κ
1
⋯
κ
m
{\displaystyle K=\mathrm {det} \mathrm {I\!I} _{\eta }=\kappa _{1}\cdots \kappa _{m}}
はM の単位法線η というM に外在的な量に依存しており、η の向きを変えれば
κ
1
,
…
,
κ
m
{\displaystyle \kappa _{1},\ldots ,\kappa _{m}}
の符号は全て反転してしまい、次元m が奇数である事から
K
=
κ
1
⋯
κ
m
{\displaystyle K=\kappa _{1}\cdots \kappa _{m}}
の符号も反転してしまう。
しかし次元m が奇数の場合であっても、符号を除いてガウス曲率は内在的な量となる事を前述のTheorema Egregiumの一般化 から示すことができる:
系 (符号を除いたガウス曲率の内在性) ― 記号を前述の定理 と同様に取る。M の次元m が奇数であっても、
M
¯
c
{\displaystyle {\bar {M}}_{c}}
におけるM のガウス曲率K は符号を除いて内在的な量である[28] [注 3] [注 2]
以上の事から、m が偶数の場合には
M
¯
c
{\displaystyle {\bar {M}}_{c}}
におけるM のガウス曲率をリーマン曲率で具体的に書きあらわす事ができる。次節では
M
¯
c
{\displaystyle {\bar {M}}_{c}}
がユークリッド空間である場合に対し、この具体的な表記を求める。
前節では
M
⊂
M
¯
c
{\displaystyle M\subset {\bar {M}}_{c}}
が偶数次元でしかも余次元が1 のとき、ガウス曲率がM の内在的な量である事 を示した。
本節の目的は
M
¯
c
=
R
m
+
1
{\displaystyle {\bar {M}}_{c}=\mathbb {R} ^{m+1}}
の場合に、ガウス曲率をM に内在的な量で具体的に書きあらわす事にある。そのために導入するのがオイラー形式 である。オイラー形式は偶数次元のリーマン多様体M 上で曲率テンソルを用いて定義される。そしてM が余次元1 で
R
m
+
1
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m+1}}
に埋め込まれているときは、オイラー形式はガウス曲率の定数倍に一致する。
本節の内容は後でガウス・ボンネの定理を記述するときに重要となる。「オイラー形式」という名称も、ガウス・ボンネの定理からこの値がオイラー標数 と関係づけられる事に由来する。
オイラー形式を定義するため、「パッフィアン」を定義する。これは後述するように行列式 の平方根に相当する。
上記の定理において、
P
f
(
α
)
{\displaystyle \mathrm {Pf} (\alpha )}
の存在一意性は
⋀
n
V
{\displaystyle \bigwedge ^{n}V}
が1 次元ベクトル空間な事から明らかに従う。V と同じ向きの正規直交基底の取り方によらないことも、
P
f
(
α
)
{\displaystyle \mathrm {Pf} (\alpha )}
の定義がα の成分表示によらず、しかも
e
1
∧
⋯
∧
e
m
{\displaystyle e_{1}\wedge \cdots \wedge e_{m}}
がそのような基底の取り方によらない事から明らかに従う。
歪対称行列
A
=
(
a
i
j
)
i
j
{\displaystyle A=(a^{ij})_{ij}}
に対し、紛れがなければ
α
=
∑
i
>
j
a
i
j
e
i
∧
e
j
{\displaystyle \alpha =\sum _{i>j}a^{ij}e_{i}\wedge e_{j}}
のパッフィアン
P
f
(
α
)
{\displaystyle \mathrm {Pf} (\alpha )}
の事を
P
f
(
A
)
{\displaystyle \mathrm {Pf} (A)}
とも表記する。
定義から明らかに次が成立する。
定理 ―
任意の正則行列 B に対し、
P
f
(
B
−
1
A
B
)
=
d
e
t
(
B
)
P
f
(
A
)
{\displaystyle \mathrm {Pf} (B^{-1}AB)=\mathrm {det} (B)\mathrm {Pf} (A)}
が成立する。よって特に任意の直交行列 B に対し、
P
f
(
B
−
1
A
B
)
=
{
P
f
(
A
)
if
d
e
t
(
B
)
=
1
−
P
f
(
A
)
if
d
e
t
(
B
)
=
−
1
{\displaystyle \mathrm {Pf} (B^{-1}AB)={\begin{cases}\mathrm {Pf} (A)&{\text{if }}\mathrm {det} (B)=1\\-\mathrm {Pf} (A)&{\text{if }}\mathrm {det} (B)=-1\end{cases}}}
が成立する[29] 。
パッフィアンは具体的には以下のように書ける。
パッフィアンは行列式の平方根である:
定理 ― m =2k 次の歪対称行列
A
=
(
a
i
j
)
i
j
{\displaystyle A=(a^{ij})_{ij}}
に対し、以下が成立する[29] :
P
f
(
A
)
2
=
d
e
t
(
A
)
{\displaystyle \mathrm {Pf} (A)^{2}=\mathrm {det} (A)}
.
なお本節で我々は偶数次の歪対称行列に対して行列式の平方根がパッフィアンと一致する事を見たが、奇数次の歪対称行列の場合は行列式は常に0 になる事が知られている。よって奇数次の場合には「行列式の平方根」も0 になる。
次に我々はパッフィアンを使ってオイラー形式を定義する。
上記の定義に関して3つ補足する。第一に、オイラー形式を定義する際、パッフィアンを
(
2
π
)
k
{\displaystyle (2\pi )^{k}}
で割るのは、このようにすると後述するガウス・ボンネの定理で不要な定数が消えて定理の記述が簡単になるからである。
第二に、「
P
f
(
Ω
)
{\displaystyle \mathrm {Pf} (\Omega )}
」という記号の意味についてである。「
P
f
(
Ω
)
{\displaystyle \mathrm {Pf} (\Omega )}
」はパッフィアンPf(A ) の具体的表記 において、行列A をΩ に置き換え、さらに積をウェッジ積に置き換えることで定義される。すなわち、
P
f
(
Ω
)
=
1
2
k
k
!
∑
σ
∈
S
m
s
g
n
(
σ
)
Ω
σ
(
1
)
σ
(
2
)
∧
⋯
∧
Ω
σ
(
m
−
1
)
σ
(
m
)
{\displaystyle \mathrm {Pf} (\Omega )={1 \over 2^{k}k!}\sum _{\sigma \in {\mathfrak {S}}_{m}}\mathrm {sgn} (\sigma )\Omega ^{\sigma (1)}{}_{\sigma (2)}\wedge \cdots \wedge \Omega ^{\sigma (m-1)}{}_{\sigma (m)}}
なお、添字の上下がPf(A ) の具体的表記とは異なっているが、正規直交基底を考えているのでこれは問題にならない。
第三に、Ωi j は2-形式であるので、上述のウェッジ積はΩi j の入れ替えに関して可換である。よって前節で通常の実数係数の行列に対して成立した定理の多くが
P
f
(
Ω
)
{\displaystyle \mathrm {Pf} (\Omega )}
に対しても成立する。
特に、
P
f
(
Ω
)
{\displaystyle \mathrm {Pf} (\Omega )}
は正規直交基底の向きを保つ取り方に対して不変であり、したがってオイラー形式はM と同じ向きの正規直交基底の取り方によらずwell-definedである。
したがって、オイラー形式はM の全域で定義可能である。
(正規直交とは限らない)基底
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
とその双対基底を
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e^{1},\ldots ,e^{m}}
を使って曲率テンソルを
R
i
j
k
ℓ
=
g
(
R
(
e
i
,
e
j
)
e
ℓ
,
e
k
)
{\displaystyle R_{ijk\ell }=g(R(e_{i},e_{j})e_{\ell },e_{k})}
と成分表示すると、オイラー形式を下記のように成分表示できる:
定理 (オイラー形式の成分表示) ― (正規直交とは限らない)基底
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
に対し、以下が成立する[34]
e
u
(
Ω
)
=
1
(
8
π
)
k
k
!
R
i
1
i
2
j
2
j
1
⋅
⋯
⋅
R
i
m
−
1
i
m
j
m
j
m
−
1
g
(
e
i
1
∧
⋯
∧
e
i
k
,
e
j
1
∧
⋯
∧
e
j
k
)
d
V
{\displaystyle \mathrm {eu} (\Omega )={1 \over (8\pi )^{k}k!}R_{i_{1}i_{2}j_{2}j_{1}}\cdot \cdots \cdot R_{i_{m-1}i_{m}j_{m}j_{m-1}}g(e^{i_{1}}\wedge \cdots \wedge e^{i_{k}},e^{j_{1}}\wedge \cdots \wedge e^{j_{k}})dV}
ここでdV はM の体積要素であり、上式はアインシュタインの縮約記法を用いている。
なお、上式は
i
1
,
…
,
i
k
{\displaystyle i_{1},\ldots ,i_{k}}
および
j
1
,
…
,
j
k
{\displaystyle j_{1},\ldots ,j_{k}}
が
1
,
…
,
k
{\displaystyle 1,\ldots ,k}
の置換になっている項以外は0 になる。
本節では、偶数次元リーマン多様体M が余次元1 でユークリッド空間に埋め込まれているときは、ガウス曲率とオイラー形式は定数倍を除いて一致する事を見る:
証明
e
1
,
…
,
e
m
{\displaystyle e_{1},\ldots ,e_{m}}
をそれぞれ主曲率κ1 、...、κm に対応する主方向とし、
θ
1
,
…
,
θ
m
{\displaystyle \theta ^{1},\ldots ,\theta ^{m}}
をその双対基底とすると、断面曲率と主曲率の関係 から、
Ω
i
j
=
κ
i
κ
j
θ
i
∧
θ
j
{\displaystyle \Omega ^{i}{}_{j}=\kappa _{i}\kappa _{j}\theta ^{i}\wedge \theta ^{j}}
がi ≠j を満たすi 、j に対して成立する。よってk =m/2 とすると、パッフィアンの具体的表記 から、
P
f
(
Ω
)
=
1
2
k
k
!
∑
σ
∈
S
m
s
g
n
(
σ
)
Ω
σ
(
1
)
σ
(
2
)
∧
⋯
∧
Ω
σ
(
m
−
1
)
σ
(
m
)
=
1
2
k
k
!
∑
σ
∈
S
m
s
g
n
(
σ
)
κ
σ
(
1
)
⋯
κ
σ
(
m
)
θ
σ
(
1
)
∧
θ
σ
(
2
)
∧
⋯
∧
θ
σ
(
m
−
1
)
∧
θ
σ
(
m
)
=
κ
1
⋯
κ
m
2
k
k
!
⋅
(
2
k
)
!
θ
1
∧
⋯
∧
θ
m
=
1
⋅
3
⋅
⋯
⋅
(
2
k
−
1
)
K
d
V
{\displaystyle {\begin{aligned}\mathrm {Pf} (\Omega )&={1 \over 2^{k}k!}\sum _{\sigma \in {\mathfrak {S}}_{m}}\mathrm {sgn} (\sigma )\Omega ^{\sigma (1)}{}_{\sigma (2)}\wedge \cdots \wedge \Omega ^{\sigma (m-1)}{}_{\sigma (m)}\\&={1 \over 2^{k}k!}\sum _{\sigma \in {\mathfrak {S}}_{m}}\mathrm {sgn} (\sigma )\kappa _{\sigma (1)}\cdots \kappa _{\sigma (m)}\theta ^{\sigma (1)}\wedge \theta ^{\sigma (2)}\wedge \cdots \wedge \theta ^{\sigma (m-1)}\wedge \theta ^{\sigma (m)}\\&={\kappa _{1}\cdots \kappa _{m} \over 2^{k}k!}\cdot (2k)!\theta _{1}\wedge \cdots \wedge \theta _{m}\\&=1\cdot 3\cdot \cdots \cdot (2k-1)KdV\end{aligned}}}
となり定理が証明された。
なお、なぜパッフィアンという「行列式の平方根」がここで登場するか、という問いに対する答えるには、チャーン・ヴェイユ理論 を必要とするため、本項では触れない。
本節ではガウス・ボンネの定理を紹介する。この定理は、偶数次元のリーマン多様体において、オイラー標数をオイラー形式の全空間における積分で記述できるという趣旨の定理である。
元々はM が2次元の場合に対して示されたものであり、一般の偶数次元に対する定理は区別のためチャーン ・ガウス・ボンネの定理 とも呼ばれる。
定理 (ガウス・ボンネの定理) ―
M を偶数次元の向き付け可能かつ縁無しのコンパクトなリーマン多様体とする。このとき、
∫
M
e
u
(
Ω
)
=
χ
(
M
)
{\displaystyle \int _{M}\mathrm {eu} (\Omega )=\chi (M)}
が成立する。ここで
e
u
(
Ω
)
{\displaystyle \mathrm {eu} (\Omega )}
はM のオイラー形式であり、
χ
(
M
)
{\displaystyle \chi (M)}
はM のオイラー標数である。
M
⊂
R
m
+
1
{\displaystyle M\subset \mathbb {R} ^{m+1}}
を余次元1 で向き付け可能なリーマン多様体とする。すでに述べたように 、M 、Sm の体積要素をそれぞれ
d
V
{\displaystyle dV}
、
d
V
′
{\displaystyle dV'}
とすると、両者の間には
G
∗
(
d
V
′
)
=
K
d
V
{\displaystyle G^{*}(dV')=KdV}
という関係がある。ここでK はM のガウス曲率である。
M がコンパクト で縁がなければ、ド・ラームコホモロジー の一般論から、ガウス写像
G
:
M
→
S
m
{\displaystyle G~:~M\to S^{m}}
の写像度
d
e
g
(
G
)
{\displaystyle \mathrm {deg} (G)}
は
d
e
g
(
G
)
=
∫
M
G
∗
(
d
V
′
)
∫
S
m
d
V
′
=
∫
M
K
d
V
V
o
l
(
S
m
)
{\displaystyle \mathrm {deg} (G)={\int _{M}G^{*}(dV') \over \int _{S^{m}}dV'}={\int _{M}KdV \over \mathrm {Vol} (S^{m})}}
に等しい[36] 。ここで
V
o
l
(
S
m
)
{\displaystyle \mathrm {Vol} (S^{m})}
は球面Sm のm 次元体積である。
この事実を利用すると、偶数次元のM に対し以下の定理が結論付けられる:
1
V
o
l
(
S
m
)
∫
M
K
d
V
=
d
e
g
(
G
)
{\displaystyle {1 \over \mathrm {Vol} (S^{m})}\int _{M}KdV=\mathrm {deg} (G)}
はすでに示したので、
d
e
g
(
G
)
=
χ
(
M
)
2
{\displaystyle \mathrm {deg} (G)={\chi (M) \over 2}}
のみを示す。
M が連結 ではない場合は連結成分毎に定理を証明すれば良いので、一般性を失わずM は連結であると仮定する。このとき、m +1 次元多様体
N
⊂
R
m
+
1
{\displaystyle N\subset \mathbb {R} ^{m+1}}
で
∂
N
=
M
{\displaystyle \partial N=M}
となるものが存在する事が下記の定理により保証される:
そこでN に対してホップ による以下の定理を用いる:
定理[39] (ホップの指数定理(Hopf's Index Theorem[40] )) ―
R
m
+
1
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m+1}}
のコンパクトなm +1 次元部分多様体
N
⊂
R
m
+
1
{\displaystyle N\subset \mathbb {R} ^{m+1}}
上のベクトル場X で、非退化な孤立零点しか持たず、さらにX がN の境界∂N 上N の外側を向いているものとすると、X の零点の指数 の総和は∂N のガウス写像の写像度に等しい。
x
1
,
…
,
x
n
∈
N
{\displaystyle x_{1},\ldots ,x_{n}\in N}
をX の零点とし、これらの零点のε -近傍を
B
1
,
…
,
B
n
{\displaystyle B_{1},\ldots ,B_{n}}
とし、さらに
S
i
:=
∂
B
i
{\displaystyle S_{i}:=\partial B_{i}}
(
i
=
1
,
…
,
n
{\displaystyle i=1,\ldots ,n}
)とする。ε を十分小さく取る事で、
B
i
∩
B
j
=
∅
{\displaystyle B_{i}\cap B_{j}=\emptyset }
for
i
≠
j
{\displaystyle i\neq j}
としてよい。
N
^
:=
N
∖
(
B
1
∪
⋯
∪
B
n
)
{\displaystyle {\hat {N}}:=N\setminus (B_{1}\cup \cdots \cup B_{n})}
とすると、Bi の定義から
N
^
{\displaystyle {\hat {N}}}
上X は0 にならない。このため
P
∈
N
^
{\displaystyle P\in {\hat {N}}}
に対し、
η
(
P
)
:=
X
P
‖
X
P
‖
{\displaystyle \eta (P):={X_{P} \over \|X_{P}\|}}
が定義できる。
η
(
P
)
{\displaystyle \eta (P)}
は長さ1 である事から単位球Sm の元とみなす事ができるので、写像
η
:
P
∈
N
^
↦
η
(
P
)
∈
S
m
{\displaystyle \eta ~:~P\in {\hat {N}}\mapsto \eta (P)\in S^{m}}
が定義できる。明らかにη のM への制限はM のガウス写像に一致する。
また零点の指数の定義から
η
S
i
{\displaystyle \eta _{S_{i}}}
の写像度は零点xi の指数に一致する[注 5]
ホモロジー群
H
m
(
S
i
)
{\displaystyle H_{m}(S_{i})}
、
H
m
(
M
i
)
{\displaystyle H_{m}(M_{i})}
の基本類 をそれぞれ
[
S
i
]
{\displaystyle [S_{i}]}
、
[
M
]
{\displaystyle [M]}
とする。これらの基本類を包含写像
S
1
∪
⋯
S
n
∪
M
↪
N
{\displaystyle S_{1}\cup \cdots S_{n}\cup M\hookrightarrow N}
により
H
m
(
N
)
{\displaystyle H_{m}(N)}
に写すと、
[
M
]
−
[
S
1
]
−
⋯
−
[
S
n
]
+
=
[
∂
N
]
=
0
in
H
m
(
N
)
{\displaystyle [M]-[S_{1}]-\cdots -[S_{n}]+=[\partial N]=0~~{\text{in}}~~H_{m}(N)}
が成立する。なお、ここで
[
S
i
]
{\displaystyle [S_{i}]}
の符号が負なのは、Bi の向き付けを
S
i
=
∂
B
i
{\displaystyle S_{i}=\partial B_{i}}
によりBi から入れているからである。
よって
S
1
∪
⋯
S
n
∪
M
↪
N
→
η
S
m
{\displaystyle S_{1}\cup \cdots S_{n}\cup M\hookrightarrow N{\overset {\eta }{\to }}S^{m}}
がホモロジー群に誘導する写像を考えると、
η
∗
(
[
M
]
)
=
η
∗
(
[
S
1
]
)
+
⋯
+
η
∗
(
[
S
n
]
)
in
H
m
(
S
m
)
{\displaystyle \eta _{*}([M])=\eta _{*}([S_{1}])+\cdots +\eta _{*}([S_{n}])~~{\text{in}}~~H_{m}(S^{m})}
が成立する。
η
∗
(
[
M
]
)
{\displaystyle \eta _{*}([M])}
は定義からM のガウス写像の写像度に等しく、写像度
η
∗
(
[
S
i
]
)
{\displaystyle \eta _{*}([S_{i}])}
は零点xi の指数に一致したので定理が証明された。
上述の定理の条件を満たすX を選ぶと[注 6] 、X の零点の指数の総和はポアンカレ・ホップの定理 よりN のオイラー標数に等しいので、以上の事実から
d
e
g
(
G
)
=
χ
(
N
)
{\displaystyle \mathrm {deg} (G)=\chi (N)}
が成立する。
N' をN のコピーとし、N とN' をその縁である
∂
N
=
∂
N
′
=
M
{\displaystyle \partial N=\partial N'=M}
で張り合わせてできる多様体を
N
~
{\displaystyle {\tilde {N}}}
とする(すなわち
N
~
{\displaystyle {\tilde {N}}}
はN のダブル (英語版 ) )と、
χ
(
N
~
)
+
χ
(
M
)
=
χ
(
N
)
+
χ
(
N
′
)
=
2
χ
(
N
)
{\displaystyle \chi ({\tilde {N}})+\chi (M)=\chi (N)+\chi (N')=2\chi (N)}
が成立する[注 7] 。
M が偶数次元だという仮定から、
N
~
{\displaystyle {\tilde {N}}}
は奇数次元であり、縁のないコンパクト奇数次元多様体のオイラー標数はポアンカレの双対性定理 から常に0 なので、前述の式から
χ
(
M
)
=
1
2
χ
(
N
)
{\displaystyle \chi (M)={1 \over 2}\chi (N)}
が言え、定理が証明される。
上記の定理にガウス曲率がオイラー形式で表記できた という事実を適用する事で、ホップ は以下を示した:
定理 (
R
m
+
1
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m+1}}
内かつ余次元1 の場合のガウス・ボンネの定理 ) ―
記号を上述の定理 と同様に取る。このとき、
∫
M
e
u
(
Ω
)
=
χ
(
M
)
{\displaystyle \int _{M}\mathrm {eu} (\Omega )=\chi (M)}
が成立する。ここで
e
u
(
Ω
)
{\displaystyle \mathrm {eu} (\Omega )}
はM のオイラー形式である[41] 。
ここで我々はm =2k とすると、
V
o
l
(
S
m
)
=
2
(
2
π
)
k
1
⋅
3
⋅
⋯
⋅
(
2
k
−
1
)
{\displaystyle \mathrm {Vol} (S^{m})={\frac {2(2\pi )^{k}}{1\cdot 3\cdot \cdots \cdot (2k-1)}}}
である[42] 事を用いた(超球の体積 の項目も参照)。
上記の定理は「M が
R
m
+
1
{\displaystyle \mathbb {R} ^{m+1}}
に余次元1 で埋め込まれている」という強い条件の元でのみ成立しているので、ガウス・ボンネの定理を示すにはこの条件を無くす必要がある。そのために使うのが下記の定理である:
定理 (ナッシュの埋め込み定理 ) ―
M をコンパクトなm 次元リーマン多様体とする。このとき、あるn ≧m とあるC∞ 級の埋め込み
ϕ
:
M
↪
R
n
{\displaystyle \phi ~:~M\hookrightarrow \mathbb {R} ^{n}}
が存在し、M 上のリーマン計量g は
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
の引き戻しと一致する[43]
よってM が
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
の部分多様体だと仮定しても一般性を失わない。しかしM は
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
において余次元1 とは限らないので、このままでは前述のホップによる定理を適用できない。
そこでM の
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
をε だけ「太らせたもの」(すなわち管状近傍 (英語版 ) )をN とすると、ε が小さければN はM ×D n -m と位相同型である。ここでm はM の次元である。よって
χ
(
∂
N
)
=
χ
(
M
×
S
n
−
m
−
1
)
=
χ
(
M
)
χ
(
S
n
−
m
−
1
)
=
2
χ
(
M
)
{\displaystyle \chi (\partial N)=\chi (M\times S^{n-m-1})=\chi (M)\chi (S^{n-m-1})=2\chi (M)}
が成立する。
χ
(
∂
N
)
{\displaystyle \chi (\partial N)}
は
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
で余次元1 なので、前述のホップによる結果を適用でき、
∫
∂
N
e
u
(
Ω
∂
N
)
=
χ
(
∂
N
)
=
2
χ
(
M
)
{\displaystyle \int _{\partial N}\mathrm {eu} (\Omega ^{\partial N})=\chi (\partial N)=2\chi (M)}
が言える[注 8] 。ここで
Ω
∂
N
{\displaystyle \Omega ^{\partial N}}
は∂N の曲率形式である。
ヘルマン・ワイル は管状近傍の体積を具体的に(非常に複雑な)計算する事で、
∫
∂
N
e
u
(
Ω
∂
N
)
{\displaystyle \int _{\partial N}\mathrm {eu} (\Omega ^{\partial N})}
が
∫
M
e
u
(
Ω
)
{\displaystyle \int _{M}\mathrm {eu} (\Omega )}
の2 倍である事を示した[注 9] 。以上の議論からガウス・ボンネの定理が証明された。
本稿ではリーマン多様体に対するガウス・ボンネの定理を記述したが、擬リーマン多様体 でも同様の定理が成立する[44] :
定理 (擬リーマン多様体のガウス・ボンネの定理) ―
M を偶数次元の向き付け可能かつ縁無しのコンパクトな符号数
(
p
,
m
−
p
)
{\displaystyle (p,m-p)}
の擬リーマン多様体とする。このとき、p が奇数であればχ (M )=0 である。
χ
(
M
)
{\displaystyle \chi (M)}
はM のオイラー標数である。
一方p が偶数であれば、
(
−
1
)
p
/
2
∫
M
e
u
(
Ω
)
=
χ
(
M
)
{\displaystyle (-1)^{p/2}\int _{M}\mathrm {eu} (\Omega )=\chi (M)}
が成立する。ここで
e
u
(
Ω
)
{\displaystyle \mathrm {eu} (\Omega )}
はM のオイラー形式である。
^ 本節では話を簡単にするためM が
(
M
¯
,
g
)
{\displaystyle ({\bar {M}},g)}
の部分多様体の場合を議論するが、本節の議論は全て局所的なものなので、本設の議論は全てM が
(
M
¯
,
g
)
{\displaystyle ({\bar {M}},g)}
にはめ込まれている場合に自然に拡張できる。
^ a b c 本定理でいる「内在的」の意味に注意する必要がある。実際、M の内在的な量から直接計算される
c
+
κ
i
κ
j
{\displaystyle c+\kappa _{i}\kappa _{j}}
から
κ
i
κ
j
{\displaystyle \kappa _{i}\kappa _{j}}
を求めるには、c を知らねばならず、積
κ
i
κ
j
{\displaystyle \kappa _{i}\kappa _{j}}
はc に依存して決まる 。よって
κ
i
κ
j
{\displaystyle \kappa _{i}\kappa _{j}}
から求まる偶数次平均曲率やガウス曲率の平方等もc に依存して決まる量である。
本定理で言う「内在的」はc をfixしたとき、任意に埋め込み写像
f
:
M
→
M
¯
c
{\displaystyle f~:~M\to {\bar {M}}_{c}}
を取ると、f から定まる主曲率の積の集合
{
κ
i
f
κ
j
f
}
{\displaystyle \{\kappa _{i}{}^{f}\kappa _{j}{}^{f}\}}
(やそこから定まる偶数次平均曲率、、ガウス曲率の平方等)は、f が
M
¯
c
{\displaystyle {\bar {M}}_{c}}
への埋め込み写像である限り 、f に依存しない、という意味である。
^ すなわちガウス曲率の自乗K2 がM に内在的な量である。
^ α は偶数次(2次)なので、
α
∧
⋯
∧
α
⏞
m
/
2
{\displaystyle \overbrace {\alpha \wedge \cdots \wedge \alpha } ^{m/2}}
は0 になるとはかぎらない。例えば
α
=
e
1
∧
e
2
+
e
3
∧
e
4
{\displaystyle \alpha =e_{1}\wedge e_{2}+e_{3}\wedge e_{4}}
なら
α
∧
α
=
2
e
1
∧
e
2
∧
e
3
∧
e
4
{\displaystyle \alpha \wedge \alpha =2e_{1}\wedge e_{2}\wedge e_{3}\wedge e_{4}}
。
^ 文献によってこの写像度を指数の定義とするものと、ヘッシアンの符号数を指数の定義としてこれが写像度と一致するのを定理とするものがあるが、ここでは前者に従った。
^ そのようなX を作るには、ガウス写像
G
:
M
→
S
m
{\displaystyle G~:~M\to S^{m}}
を隆起函数 を用いて拡張して
G
~
:
N
→
R
m
+
1
{\displaystyle {\tilde {G}}~:~N\to \mathbb {R} ^{m+1}}
を作り、さらに一般の位置定理を用いて
G
~
{\displaystyle {\tilde {G}}}
を摂動する事で非退化な零点のみを持つ写像を作れば良い。
^
マイヤー・ヴィートリス完全系列
⋯
→
H
i
+
1
(
N
~
;
R
)
→
H
i
(
M
;
R
)
→
H
i
(
N
;
R
)
⊕
H
i
(
N
′
;
R
)
→
H
i
(
N
~
;
R
)
→
⋯
{\displaystyle \cdots \to H_{i+1}({\tilde {N}};\mathbb {R} )\to H_{i}(M;\mathbb {R} )\to H_{i}(N;\mathbb {R} )\oplus H_{i}(N';\mathbb {R} )\to H_{i}({\tilde {N}};\mathbb {R} )\to \cdots }
から証明できるが、N 、N' が三角形分割可能な事を認めれば、三角形分割とオイラー標数の関係から容易に証明できる。
^ 最後の等号はキネットの定理 (英語版 ) から示せるが、M が三角形分割可能な事を仮定すれば直接示す事もできる。
^ #Gray はワイルによる管状近傍の理論を説明したもので、本書の5章でホップの結果からガウス・ボンネの定理を示している。
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